からから揺れき 秩父嶺
秩父嶺
エジプトの旅
降り立てるカイロの五時はほの暗く明けの明星低く輝く
クフ王のピラミッドの列ふと見れば砂に数多の鳩の足あと
街走るバスの窓外一頭の駱駝過ぎゆくギザなればこそ
女王の顔を削ぎたるレリーフに王家の歴史と人の業(ごふ)見つ
墓奥の女人の壁画見つめゐて声きく如くしばし黙しぬ
百余なる巨大石柱もつ神殿カルナックとふ地の興亡偲ぶ
彫り深き青年黙して帆掛け船自在に操りナイルを渡る
夕映えのルクソールなる神殿の悠久の刻にしばし身を置く
朝日射すアブ・シンベルの神殿の石像の肩に鳩の舞ひをり
ガイド指す砂漠の彼方の蜃気楼バスの窓辺にひた顔を寄す
エジプトは米をウルズと呼ぶといふ日本の粳(うるち)が語源とガイド
女(をみな)とふミイラ抱ける花束は幾千年も形たもてり
恋人の涙の粒も含めるか心ひかるる棺(ひつぎ)の花束
黄金の仮面(マスク)も玉座も若くして逝きたる王への愛(かな)しみを秘む
双の肩スカーフ掛けて「一弗」(ワンドル)と物売る少年手足細かり
少年の生活いかにと断ちがたく買へばスカーフ異国のにほひす
遠き日に英雄伝説読みたるを思ひて巡るアレキサンドリア
メムノンの巨像の胸に穴ありて母の嘆きの風音立つると
コーランの声は湧くがに響きたりカイロのホテルの早き朝(あした)に