からから揺れき 蝉しぐれ
蝉しぐれ
バリ島の旅
贅沢と遠慮しつつも娘に甘え古稀の祝ひのビジネスクラス
着陸のアナウンスあり窓外にマングローブの島影迫る
夕闇のファイアーダンス炎吐く男は肌に汗光らせて
椰子の幹を走る木鼠(きねずみ)眼のあひて一瞬止まる朝風の庭
十三の重なる屋根もつ仏塔の寺を巡れりバリの蟬鳴く
夕づける丘に集ひて男らのケチャ佳境なりはずる松明
照る海に潜りて浮きて夫と娘は色鮮やかなる魚と戯る
仕事にて来られぬ息子思ひゐて土産のティーシャツ時かけて選る
古稀祝ふことなく逝きし父憶(おも)ひバリの夕陽を娘と眺む
外つ国に一度は行つて見たかりと言ひゐし父の言葉過(よぎ)りぬ
読書好き世渡り下手を自認せる父の一世をしみじみ想ふ