からから揺れき 蝉しぐれ
蝉しぐれ
薫りたつごと
清貧の言葉よぎりぬ山荘の独り居の人薫りたつごと
畔に咲く白詰草に光太郎ひとり畠打つ在りし日想ふ
この小径散歩せるとふ光太郎しのびて拾ふ榛(はん)の実ひとつ
光雲の十三回忌に蒔けるとふ栗は大樹となりて生き継ぐ
山荘に七年住みて光太郎うさぎの彫刻ひとつ残せる
夫と行く土湯の旅の高速道工事の旗ふる日焼せる老
高速道排気の汚れあびつつも真白きままに木槿まさかる
福島の訛にひかれ桃買ひぬ小さき店にも復興の幟(はた)
清雲時しだれ桜の太き幹傷(いた)み抱きて千の糸垂る
遠き日に母と訪ひ来し清雲寺野点の席に並みて座りき
「百花」なる蕎麦打つ店は教へ子の店なり花見の帰路に立ち寄る
萩寺の萩の絵葉書購ひぬ病みゐる友に秋を届けむ
雨戸繰る音に驚き飛びたてる小鳥の散らす萩のうす紅
淡紅の小さき花にも蜜あらむ盛りの萩をしじみ蝶訪ふ
散り敷ける桂黄葉(もみぢ)を踏みゆくに甘き香ほのかに立ちくる小径
舞ひ落ちたる桂黄葉は池の面を風なすままに橋桁に寄る
庭すみの白山吹の黒き実に射干玉(ぬばたま)なる語のふと浮かびくる
いまも掌(て)にお手玉遊びの名残りある数珠玉つみぬ夕光の道
数珠玉の音よき言ひて縁側にお手玉縫ひし祖母との遠き日
見過ごせず畦道につむ数珠玉の艶もつ小さき実掌に転ばする