からから揺れき 蝉しぐれ
蝉しぐれ
独り居の叔父
数枚の入院書類に姪と書く継ぐ無き家の末思ひつつ
入院の身となり頼りは汝(なれ)のみと独り居の叔父ひた繰り返す
亡き母に似たる面輪を愛しみて叔父の午睡のそばに本読む
入院の叔父を見舞へば二畝(ふたうね)のじやが芋掘りの気がかりを言ふ
独り居の叔父は墓守頼むとぞわが手握りてしばし離さず
種子落とす時期(とき)はかりしか蓮の実のうつむくままに風に揺れをり
沼底に生き継ぐ生命(いのち)抱きつつ水面に折れ伏す破れ蓮あまた
芳香の季(とき)を想ひて枯れ葉鳴る蓮池の辺(へ)にしばし佇ちをり