からから揺れき 蝉しぐれ
蝉しぐれ
木通の実
山寺へむかふ列車は警笛を長く響かせカーブ過ぎゆく
師の詠めるせみ塚の碑の歌おもひ古き石段踏みしめ登る
のぼり来て開山堂に休みたリ水引草のさゆらぎ見つつ
「汗ふく」と茂吉の詠みたる立石寺喘ぎつつ登りて吾も汗をふく
忘られぬ味を想ひて木通(あけび)の実ひとつ選びぬ山寺の店
庭先の花水木さし飛び来たる鳩の銜(くは)ふる長き細枝
巣づくりを知りて朝(あした)の庭に撒く残りの飯(いひ)をやや多くせり
足音を忍ばせ夫は戻り来て鳩の巣の様つぶさに伝ふ
雨風の音強くなり巣の鳩を夫と案ずる夕餉の卓に
母鳩の飢ゑを案じて撒ける飯雨は打ちをり夕べの庭に
吾と目のあひても鳩は身じろがず抱ける卵を黙して護る