からから揺れき 水の都

北本この人 >> からから揺れき >> 水の都 >>

水の都

新盆


逝きてより無人となれる家の庭ゑのころ草の飛石かくす

生前に叔父の研ぎたる鎌を手に墓参の道の草を刈り終ふ

ねもごろに墓石浄めて法名の白文字指に追へば冷たし

病む叔父の「墓を頼む」のひとことを思ひて立つる供養の卒塔婆

甘きもの好みし叔父と大きめを選りて供ふる御萩(おはぎ)をひとつ

盆灯籠光り放ちて回る宵叔父の残せる短歌帳繰る

新盆の夜半に目覚めて青竹の香りほのかな仏間通りぬ

叔父逝きて捲ることなき月暦(つきごよみ)「俊子来る日」の文字そのままに

精霊となりて来給ふ叔父なるか蜩(ひぐらし)ひとつ網戸にすがる

新盆を過ぎたる家の片付けを夫と黙して夕つ方まで

書架ひとつ机ひとつの書斎なり『広辞苑』ひく叔父の顕ちくる

戦死せる弟ありて軍服の写真は叔父の文箱にひそと

一人子を亡くしし叔父の唯一なる歌集は挽歌の頁(ページ)多かり

文机の上(へ)に残されし住所録逝きたる人らを抹消の線

[音声でお聴きになれます]

<< 前のページに戻る