からから揺れき 水の都

北本この人 >> からから揺れき >> 水の都 >>

水の都

七回忌


父母在さぬ無人の実家の戸を開けて明日は法事と家内(やぬち)清むる

鏡台の母の好みの香水は七年経たるにかの日の香り

簞笥開け母の手編のセーターの樟脳入れ替ふ着るあて無きに

小抽斗(こひきだし)母の暮らしをそのままに眼鏡も財布も常の場所なり

母逝きてはや七回忌ややまろき兄の背見つめ読経聞きをり

焼香に立てば蠟の灯ほのゆるる母戻り来て在すがごとくに

親族(うから)並む茶を出す妹若き日の母によく似るエプロン姿

新聞に載りたる母の短歌(うた)ひとつ口遊みたり供養とならむ

梅雨寒の陸奥なれど桜桃の実は艶やかに撓(たわ)む枝先

桜桃の枝揺らしつつ実を食みぬ幼のごとく小鳥のごとく

桜桃の実を摘む仕草やさしかり太き指(おゆび)の農園の主

[音声でお聴きになれます]

<< 前のページに戻る