からから揺れき 水の都
水の都
十五夜さま
実家より持ち来し紫苑(しをん)の根付きゐて今宵十五夜三分咲きなり
より高き場所を求めて歩道橋上がれば一味違ふ名月
障子開け灯りを消して座る部屋月光(かげ)虫の音(ね)ひときはの夜気
父母(ふぼ)も吾も「十五夜さま」と様つけて呼びゐし杳き日なべて穏しき
歌詠める母より聞きし言葉なり芋名月も栗名月も
棘多き柚子の樹なれば幾度も枝向きよみて鋏構ふる
武甲山遠く眺むる日溜りに柚子は撓(たわわ)に実をつけて立つ
病む友にせめて柚子湯と実を詰むる庭の蠟梅一枝添へて
傷あるも小さきも洗ひて笊に盛る逝きたる父の植ゑし柚子なり
父母逝きて子ら離れ住むふるさとの無人の家に鈴成りの柚子