からから揺れき 水の都

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水の都

二度頷きて


水欲しと言ふをなだめて医師よりの言葉を伝ふ真夜の病室

耳もとに「大丈夫だから」と繰り返しベッドの叔父の細き手握る

重篤の叔父はげまさむと亡き母の口調真似ればかすかに笑まふ

骨ばれる肩をさすりぬ点滴の管(くだ)やや揺れて荒き息差し

つむりたる眼(まなこ)開けねど呼びかけに二度頷きて叔父は逝きたり

通夜の席故人の歌集焼香の人らは繰りて在りし日語る

納骨を終へて戻れる玄関に杖と靴とは常のごとあり

部屋隅にわが贈りたる「養命酒」日々飲みゐしか残り少なに

緊急の連絡先とて吾が電話番号(でんわ)柱に太き文字にて書かれき

旅立ちのとき知りたるか畑(はた)の草刈り終へてあり入院前に

[音声でお聴きになれます]

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