からから揺れき 鎮魂の歌碑

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鎮魂の歌碑

ちちろ鳴く部屋


入り陽さす北のアトリエ亡き妻の衣(ころも)はひそと壁に掛けあり

妻逝きし画家の筆なる「長恨歌」襖うめたるちちろ鳴く部屋

涸びたる鳥の骸(むくろ)の小作品黙して見つむる個展会場

繊細な筆あと残る作品に逝きたるひとへの愛(かな)しさ滲む

身の裡の仏も夜叉も描(ゑが)きゐてややに寂しき自画像のあり

離れ住む孫のかきたる絵の人は皆笑みてをり時止まるがに

病室の枕辺に描(か)く風景画生かさるる身の祈り伝はる

「生還」と名付くる大作来し方も行く末もまた無垢の天地(あめつち)

「ふるさと」なる作品細かき描写なり紡ぐがごとく畠打つごとく

華やかなる画歴のもとに歩み来しひとは時折とほき目をせり

独り居の自適告げつつ八十路越す画家の面輪の澄みて清しき

[音声でお聴きになれます]

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