北本市史 通史編 近代

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第4章 十五年戦争下の村とくらし

第4節 十五年戦争下の生活と文化

5 戦時下の人々のくらし

国民精神総動員運動
昭和十二年七月七日、中国北京郊外の蘆溝橋(ろこうきょう)付近で日中両軍の衝突事件が勃発(ぼっぱつ)した。現地では両軍の間で一応停戦が成立しており、近衛文暦内閣も当初は紛争の不拡大を表明していた。しかし、七月十一日には軍などの強硬意見におされ、華北の治安維持を目的として五個師団を派遣(はけん)する旨の政府声明を発表した。こうして日本は宣戦布告することなく中国との全面戦争に突入した。こうした日本の侵略に対して、中国ではそれまで対立していた蔣介石の国民政府と中国共産党は、「抗日救国」を旗じるしとして九月二十三日に第二次国共合作を成立させ、日本の侵略に対して一丸となって戦う体制を確立した。翌十三年十月、日本軍は武漢(ぶかん)を攻略し中国の主要な都市と鉄道を占領下においた。しかし、それは所謂(いわゆる)「点と線」の支配のみで、日本に中国大陸を縦断する広大な戦線に補給する力は無かった。国民政府は日本の攻撃に対し、重慶(じゅうけい)に政府を移しアメリカ・イギリスなどの援助を受けて抗戦をつづけ、日本が期待した汪兆銘(おうちょうめい)エ作も効果をあげず、戦線は膠着(こうちゃく)状態となり、戦争は完全に長期化の様相を呈するに至った。

写真164 国民精神総動員のビラ

(石戸村 38)

こうした戦局を打破すべく、政府は国民を物心両面において戦争体制に組織するため、昭和十二年八月、国民精神総動員要綱を決定、九月には「挙国一致」「尽忠(じんちゅう)報国」「堅忍(けんにん)持久」をスローガンとする政府主催の大演説会が開かれ、同月十三日国民精神総動員実施要綱が発表された。これにより、中央に内務・文部両省を主務官庁にする中央運動機関、道府県には知事を中心とする国民精神総動員地方実行委員会が設置されることになった。埼玉県では、十月国民精神総動員埼玉地方実行委員会規程を公布し、実行委員五七名を任命した。そして第一回の委員会で国の実施要綱に基づいて前述のように実行計画が決定された(第四章第一節四一八頁参照)。この計画に基づき各市町村では、市町村長が中心となって各種団体を総合的に総動員し、さらに町内会・部落会・職場ごとに実施計画を樹立しその実行に務め、各家庭の隅々まで浸透するよう徹底化された。
次に、市域における活動状況を石戸村の執務資料等によって見てみよう。まず同十二年には石戸村軍人後援会々則(近代№二四三)がつくられた。この会は「村民一致協力出征将兵並ニ在営将兵ヲ犒(ねぎら)ヒ其ノ家族並遺族ヲ慰藉(いしゃ)シ以テ出征兵並在営将兵ヲシテ後顧(こうこ)ノ憂(うれい)ナカラシムルヲ以テ目的トス」とされ、石戸村役場に事務所を置き、村長以下四名の役員と各区長の中から選ばれた評議員若干(じゃっかん)名を置いて「出征将兵ノ慰問」、「出征将兵家族慰問」「戦病死軍人弔祭(ちょうさい)」「将兵歓送迎」などの事業を決めた。会の経費は各戸に割当てられた。
石戸村荒井の昭和十二年十二月二十五日以降の現役応召者名簿によれば、同月召集者は大畑正市以下八名、同十三年に五味多四郎以下一七名、同十四年は吉田金作以下一四名となっている。現役兵は同十三年鈴木保以下二二名、同十四年には三一名であった。また、戦死者を含めた軍事扶助者調が行われ、昭和十四年九月二十日現在、三八名についての受給金額等の調査が行われている。
次いで昭和十二年七月十九日には、吉田廣吉・矢部惣時の二名に対する「出征兵士武運長久祈願祭」が、石戸宿天神社・高尾氷川社で行われた。その執行通知には「日支ノ風雲急ヲ告ゲ政府ニ於テハ今回内地ヨリー部部隊ノ派兵ヲ決シ充員召集状ヲ発シ候処本村ニテモ左記両君ノ武運長久祈願祭ヲ執行(しっこう)致シ度候間御参列相成度此段御通知申上候」とある。さらに八月十七日には石戸小学校において福島佐市ら五名の「出征兵士武運長久祈願祭」が行われた。長期化した中国戦線にむけて郷土から陸続(りくぞく)として兵士が送られていった。
しかし、この連動も従来の国策運動と同様なかなか実効が伴わず、政府は、その後昭和十四年三月運動の立直しと強化に関する閣議決定を行った。中丸村でも加藤栄一村長名で、各大字区長宛に銃後後援強化週間の実施を通知し、「実効ヲ挙グルニ努メラレ度」と督促している(近代№一四四)。
石戸村執務資料には、次のような「自覚更生十五訓」が収録されている。
1  希望    光る埼玉輝く村よ理想の郷といわれたい
2  共存 共栄 互に励みて互いに助け村中挙て栄えましょう
3  勤労    仕事精々勤はかたくそれは吾が為国の為
4  節倹    お金使ふは先ず一番に無駄でないのと聞いてから
5  貯蓄    貯めよ蓄めましょう欠かさず倦(う)まず日々毎日握り米
6  衛生    飲食慎(つつし)め身体のために病は口から油断から
7  忠孝    君ニ忠節親には孝と忘れないぞや人の道
8  和合    人を嫉(ねた)むな泣くないつも村中えびす顔
9  信仰    心浄(きよ)めて神様拝め仏まつりは朝と晩
10 自立 更生 目安定めて十年先の村の更生はかりましょう
11 納税    期日違(たが)えず納税期日納めりや輝く日章旗
12 済世    流せ涙を憐(あわ)れな人に運べ誠を世の人に
13 信用    信用ある人世渡りや楽にも鬼も仏も心から
14 時間 励行 人を待つ身の辛さを思い人を待たすな集りに
15 進歩    熱と誠で鳴るサイレンは時世時節をつげ渡る

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