北本市史 通史編 現代
第1章 戦後復興期の北本
第3節 食糧増産時代の北本
8 室とさつまいも
自然の立地を生かした室以上のように室をつくる関東口ーム層は温度変化を和らげ、外気温度が四.五度の時も室内温度を八.五度に保ち、自然の断熱材と保温材としての機能をもっていた。本市付近の緯度や標高では、地下三メートル前後がさつまいもの貯蔵温度に適している深さといわれているが、北本の関東ローム層の層厚は、四メートルないし五メートルのため室をつくる好条件といえよう(図8)。また、関東ローム層は細孔(さいこう)げき(団粒間や管孔の孔げきで、水が重力で排除される孔げきである。その孔げきは約〇.〇二ミリメートル~二ミリメートル)が発達し水持ちがよいとされている。それゆえ関東口ーム層は水分補給剤としての役割をもち、先に示したような湿度を維持できると考えられる。
図8 関東ローム台地(大宮台地)に立地する室の模式図

(荒川←→元荒川東西断面)
さらに重要なこととして関東ローム層は掘りやすく、同時に切り出したままの関東ロ ーム層は崩れにくい性質をもっこともみのがせない。それゆえ農家にある道具でつくることができ、なんの補強材もいらず素掘りのままで十分な強度をもっている。ただし、江戸期や明治期のころ掘った室で現存するものが少ないことから、余り古くなると崩壊する可能性はあろう。
以上のように関東ローム台地につくられた室は、さまざまな角度からさつまいも貯蔵庫として理にかない最適といえる。さらに室の完成後の維持管理のしやすさや経費がほとんどかからないことも大きな利点にあげられる。室は、さつまいもが栽培されるようになってからつくられはじめたと考えられ、北本では室の歴史は江戸時代にまでさかのぼることができよう。こうしてさつまいもの栽培と室の掘穴は、当市の主要部を占める関東ローム台地の地質(関東口ーム層)と地形(台地)、並びに火山灰土壌のもつ自然条件を積極的に生かしてできたもので、その結果、室は農産物(さつまいも)の安定供給にはかり知れない役割を果たしたといえる。