北本市史 資料編 現代
第2章 北本の農業
第4節 畑地灌漑と水田土地改良事業
71 昭和三十三(一九五八)年三月 古市場土地改良区設立に関する報告書及び設立認可書(埼玉県行政文書一五四五三 県立文書館蔵)
昭和三十三年三月四日
埼玉県技術吏員
耕地課技師 石井 喜一㊞
埼玉県知事 栗原 浩殿
土地改良事業計画書審査について(報告)
北足立郡北本宿村矢口迪雄外十六人から申請された古市場土地改良区事業計画書について審査いたしましたから別紙のとおり報告書を提出します。
一 | この事業施行の必要性 |
イ | 自然的条件 |
1 | 本事業地域は高崎線北本宿駅の東北東約一 ・五籽県道岩槻•鴻巣線に近く周辺畑地等に囲まれて北東に延び不整形なる帯状をなす北足立郡北本宿村の一部面積七・三町歩余所々に畑地等介在する水田小団地である。 |
従来本地域には確たる用水源なく、僅かに天水に依存する外上流部の余水により辛うじてかんがいをなすものであり年々旱害を受けて収穫最も尠(く脱カ)て止を得ず、昭和三十二年五月地区内二ヶ所に深井戸を掘鑿し、地下水を利用機械揚水により連年の用水不足を解消して、豊富なる水量は地区内水稲の画期的増収を見込得る現況である。 | |
2 | 地域の残水用排兼用小水路により谷田用水に集水され隣接耕地整備地区の用水に利用され、綾瀬川の上流部赤堀に排除されて平時排水に支障はないが豪雨に際会すれぱ周辺地区外の悪水流入し、綾瀬川赤堀の水位も同時急激に上昇して排水不可能となり地域一面二・三日間も湛水して被害を蒙る状態である。 |
3 | 地区内には農道らしきものもなく僅かに畦畔を利用しいづれも巾員狭少にして迂曲し、区画もまた極めて小さく平均〇・四反程度不整一にして相交錯し農耕上不便である。 |
4 | 土質は一般に洪積層の埴土よりなり、地味中庸にして耕土は浅く心土は腐埴質壌土厚く層をなし地下水は常時高く、排水不良による表土軟弱なる湿田である。 |
ロ | 社会的経済的条件 |
1 | 本事業施行による地区内区画整理によって交通運搬は至便となり、既設揚水機によって用水は確保され排水は良好となり連年の被害は除去される。 |
2 | 湿田は解消し耕種耕法は改善され裏作栽培も可能となる。 |
3 | 用排水管理は容易となり小型運搬車、耕転機等の利用度は増進し労力は節減できる。 |
以上諸点より本事業施行の必要性を認む。 | |
二 | この事業施行の可能性 |
イ | 自然的条件 |
1 | 地区内ニヶ所の鑿井により地下水を利用(既設)機械揚水により用水は豊富に地区内末端まで配水され、残水は谷田用水を通して赤堀に自然放流できるのでかんがい排水共地理的に便利である。 |
2 | 地域は田畑併せて僅かに七・三町歩余、規模も極めて小さく多少耕地の起伏はあるが平坦地の工事であるから比較的簡単である。 |
3 | 地区内交通は至って不便であるが県道岩槻・鴻巣線同下石戸上菖蒲線に近く周辺農道を利用して工事用資材機具機械等の搬入は容易である。 |
ロ | 社会的経済的条件 |
1 | 工事用資材はセメント・木材・ヒューム管等総事業費に対し五五%にも上るのものであるが既に大部分入手済である。 |
2 | 工事は一括請負に付すものであるが一部土木工事には地元農閑期の余剰労力を利用できる。 |
3 | 地元関係者は長年の懸案であり一致して本事業の早急に達成されることを熱望している。 |
よって本事業の施行の可能性を認む。 | |
三 | 事業主体がこの事業を行うことに対する技術的意見 |
本事業は既設揚水機による配水管理を一層効果的にするため、地区内区画整理によって般道・水路・附帯構作物の新設整備で規模も小さく工事も簡単で、排水について他地区との関連性はあるが利害関係もなく、また特に高度の技術を要することもないから古市場土地改良区において事業を行うことが適当である。 | |
四 | この事業によって生ずる経済的効果 |
1 | 効用及びその算出基礎 |
種別 | 増加生産量 | 米石換算 | 石当り所得額 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|---|
石 | 石 | 円 | 円 | ||
水稲 | 六・二 | 六・三 | 八、二四〇 | 五一、九一二 | 水稲作付面積四・二町歩反当増収量〇・一五石 |
小麦 | 二五・〇 | 二一・〇 | 八、二四〇 | 一七三、〇四〇 | 裏作小麦作付面積反当増収量一・〇石 |
計 | 二七・三 | 二二四、九三二 | 換算率〇・八四 |
2 | 費用及びその算出基礎 |
事業費 七三〇、〇〇〇円 | |
工事費 六五〇、〇〇〇円 | |
事務費 八〇、〇〇〇円 | |
3 | 効用と費用との比較及びその算出基礎 |
総事業費 七三〇、〇〇〇円 | |
総増加所得費 二二四、九五二円 | |
反当事業費 一〇、〇一三円余 | |
石当事業費 二六、七三九円余 | |
摘要 反当事業費は整理前七、〇二九町歩により石当事業費は表裏作計二七・三石(米換算)により算出。 | |
五 | この事業施行によって影響するその他の事業についての処理対策 |
本事業は地区内ニケ所の鑿井により地下水を利用し既設揚水機による配水営農管理を一層効果的に行うため区画整理を施行するものであり、排水は赤堀を通して綾瀬川上流部の集水区域に包含されて旧慣による外、特別の契約もなく既に元荒川上流土地改良区には打合せの上、新に元荒川上流土地改良区に加入し事業承認書を得ており本事業施行によって他に悪影響を及ぼすものとは考えられないが、なお排水について綾瀬川上流土地改良区に打合せ、事業遂行上齟齬のないよう取計らわれたい。 | |
六 | この事業施行によって生ずる施設がある場合その管理方法に対する技術的意見 |
本事業施行によって農道・用排水路・付帯抱管等新設整備されるものであり、これら施設の維持管理には常時留意して計画断面を保持し充分機能を発揮されることが望ましい。 | |
七 | その他計画書に記載された事項について注意すべき点 |
特に該当するものはないが元荒川上流土地改良区・綾瀬川上流土地改良区とも事業承認書写を提出されたい。 | |
八 | 結論及び勧告 |
計画書はこの程度でよいが工事計画実施に当っては周到なる注意のもとに事業を遂行して充分所期の目的を達成されるよう希望する。 |