実録まちづくりにかける集団
第2編 「わぁ、つくしんぼみたい、わたしのおうち」
あそびの学校が歩んだ十三年
三 北本に全国のさくらを咲かせよう
写真2 全国から寄せられた桜の苗木
北本市は、新興住宅都市のために、全国四十七都道府県全部の出身者がそろうという珍しい町でもあったことから、何とかして全国のさくらを集めたいと考えたのである。この提案を引っさげて私は、市の都市計画課に相談に行った。「全国のさくらの苗木を、金をかけないで集める。集まったさくらは公園に植えさせていただきたい。」ところが、「そんなことができるはずかない。」と、一蹴されてしまった。さくらの苗木を金も使わず集めることなど不可能だという。予算を組んで購入しなければできるはずがない、というのがその趣旨であった。
私は、ある秘策を持っていたが、聞く耳持たぬの姿勢だったことから、「それなら集めたら植えさせるか?」と迫ると、「できるものならやってみればいい。」と、まるで木で鼻をくくったような返事であった。ならばと、平成四年度のあそびの学校事業に「全国のさくらを集めよう」というプログラムを取り入れ実行した。
まず、受講生の親たちの出身地を調べ、その首長宛に子供たちに手紙を書かせた。「私たちは、今あそびの学校というところで、ふるさとについて学習しています。私のお父さんはそちらの町の出身ですが、私の町を大切にすると同じように、お父さんの出身の町も大切にしたい。その証として、そちらの町の、さくらの苗木を一本送っていただけませんか。」という趣旨のものである。すると、子供達が手紙を書いた全ての自治体から、さくらの苗木が届けられた。もちろん費用は全部提供していただいた自治体の負担である。この活動を二年にわたって行ったところ、四十七自治体から百八十本余の苗木が届けられた。
出来ないとタカをくくっていた行政担当者も、実際に苗木を目の前にしては取り上げざるを得ない。まして、私はこのことをマスコミ発表し、新聞テレビで取り上げられてしまったことから、平成七年、公園が造成され、四十七本の代表苗木全てが植樹された。残りの苗木は、市内の官公庁、病院、大きな施設、神社仏閣などの庭に植えた。
さくらの季節に、ふるさとへ帰るのではなく、「ふるさとから北本へ見物にきてもらいたい」という願いを込めて植えられたさくらは、その後桜公園の中心的な樹木として育っている。「どうすればできるか」を考えず「どうすれば何もしないですむか」を考えているような行政には、こうしたアイデアは絶対に生まれない。