実録まちづくりにかける集団

北本この人 >> 実録まちづくりにかける集団

第2編 「わぁ、つくしんぼみたい、わたしのおうち」
   あそびの学校が歩んだ十三年

四 何にも勝る「体験」

神秘の世界「セミの羽化
毎年八月第一週土曜日の夜は、セミの羽化とホタルの観察と決めている。平成四年八月にはじめて実施した夜間学習で見た「セミの羽化」観察は、あまりにも強烈な印象であった。荒川岸にある城ヶ谷堤・通称さくら土手は、夕刻が迫る頃になるとさくらの根元のそこかしこに、二匹三匹とセミの幼虫が這い上がってくる。三〇分から一時間をかけて落ち着ける場所を見つけとどまる。二〇分ほどすると背中が小さく割れ始める。ここから約二時間が神秘な脱殻ショウである。
背割れが大きくなると薄緑色をした頭が出てくる。体の三分の二ほどが出るとちょうど逆立ちしてぶら下がった形になり、そのままで十五分ほど体を乾かしているのかあまり動かない。やがて前後に体を振るようにして逆立ちしていた前足で反転し、固定できると残り部分の脱殻を始める。思わず観察者たちが「がんばれ」と声を掛けたくなる瞬間でもある。「スポン」と音がしたかのような瞬間に、お尻が抜け全身を見せてくれる。このときまだ羽根は二~三ミリでしかない。そして、緑がかった真っ白な羽が、少しずつ少しずつ伸び始める。三〇分ほどの時間をかけて、完全な成虫の形を見せるが、この段階ではまだたとえようのない美しい姿である。純白のような緑かがった白色のような、形容しがたい美しさである。夜間観察は大体このへんで終了を迎えるが、このまま体を乾かし一時間もすると「セミ色」に変わる。そして夜明け前に飛び立つのである。
子供たちに「夜明け前に飛び立つんだょ」と話すと、必ずといっていいほど同じ質問が返ってくる。
「どうして夜明け前なの?」。
「明るくなってしまうと鳥がやってきてエサにしてしまうから、鳥が動き出す前に飛んでいくんだよ」。
すると「そうか、セミも大変なんだな」。こうして、生命の神秘と生きることの大切さを学んだ子供たちは家路につくのである。

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