北本のむかしばなし 伝説や昔話
送りオオカミ
幸之助 おじいさんが、ある年、秩父 の宝登山 様へおまいりに行ったときのことだそうです。
そのころは、どこへ行くにもみんな歩きでしたから、とても時間がかかりました。宝登山で、おふだをいただいて帰ろうとすると、神主 さんが 「これからではおそくなります。おともをつけましょう。」 と言ってくれました。 「ありがとうございます。」おじいさんは、暗い夜道のことを考え、おともをつけてもらうことにして待っていました。
しかし、いつまで待ってもおともの者があらわれませんでした。仕方がないので、おじいさんは一人で帰ることにしました。途中 まで帰ると、もう暗くなってきました。おじいさんは、足をはやめて歩きました。しばらく行くと、遠くの方でオオカミがこちらをうかがっているのに気づきました。おじいさんはびっくりして、大急ぎで歩きだしました。
けれども、おじいさんが足をはやめると、オオカミもはやくなります。おじいさんかゆっくリ歩くと、オオカミもゆっくりになります。おじいさんは、おそろしくておそろしくて生きた心地 がしませんでした。
そんなふうに、はやくなったり、おそくなったりをくり返して歩いているうちに、おじいさんはだんだん気持ちが落ち着いてきました。おじいさんは考えました。「もしかしたら、あの神主 さんが言っていたおともというのは、このオオカミのことなんじゃないかな。」
松山や吉見をすぎ、荒川 をわたりました。そこで、幸之助 おじいさんはくるりとふりむき、オオカミに「家も近くなりました。ありがとうございました。」とお礼を言うと、それっきりオオカミは見えなくなってしまったということです。
注
(1)宝登山様………長瀕町宝登山 のふもとにある宝登山神社。古くから農業や商業の神 として、また、火よけやどろぼうよけの神として有名であった。
そのころは、どこへ行くにもみんな歩きでしたから、とても時間がかかりました。宝登山で、おふだをいただいて帰ろうとすると、
しかし、いつまで待ってもおともの者があらわれませんでした。仕方がないので、おじいさんは一人で帰ることにしました。
そんなふうに、はやくなったり、おそくなったりをくり返して歩いているうちに、おじいさんはだんだん気持ちが落ち着いてきました。おじいさんは考えました。「もしかしたら、あの
松山や吉見をすぎ、
注
(1)宝登山様………