北本市史 通史編 自然

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第5章 北本の水文

第3節 湧水

市域の西部には標高三〇メートル以上の台地が、さらに台地を侵食した谷地が複雑に発達する。この地域は市内において最も起伏に富んだ地形から成り、谷地には谷頭(こくとう)部や谷壁斜面などから湧水がわき出ている。
明治初期の地引図(じびきず)によると、市域には三〇か所余りの湧水(ゆうすい)(泉)や池沼などの存在が示されている(図46)。しかし、現在の湧水分布は前記の三分のー程度のーーか所で確認されているにすぎない(北本市資料)。各地の著名な湧水が、都市化の進展する中でつぶされたり、枯渇(こかつ)していることから、市域に存在する湧水は大宮台地にとって貴重なものと言える。
したがって、市域に現存する湧水を記録しておくことは重要である。そこで、次に主要湧水の湧出量に若干の水質資料吹を加え、 その分布と概要(がいよう)を記しておく(図46、表6)。

図46 主要湧水・池沼の分布

(北本市資料より作成)

湧水地点1・2 (北袋神社西側の谷)
北袋神社西側には、全長約ーキロメートルの谷が北流してい る。 その谷壁の脚部と水田の境付近から幾つかの湧水が認められる。湧水は北袋神社沿い北側に少なくとも二か所存在し、その水は灌漑(かんがい)用として利用されている。現在の湧出量は必ずしも多くないが、近隣の水田地区における貴重な用水源である。平成三年(ー九九一)二月の湧出量調査では、地点1と2で、それぞれ毎分七・〇リットル、六・六リットル程度である。水質は必ずしも最良といえないが、灌漑用などの用途に充分利用できる現状にある。湧水か所の周囲は比較的農耕地の広がる景観を呈していることから、こうした湧水が現存していると考えられる。また、この谷筋には北袋神社南側にも若干の湧水か所が確認できるが、その湧出量は未測定である。
湧水地点3 (高尾阿弥陀堂北側の谷)
高尾阿弥陀堂の北側には、全長約ー〇〇メートルの谷があり、その谷地と台地との比高差は約ニー メートルで、比較的急峻(きゅうしゅん)な崖(がけ)を形成している。湧水は阿弥陀堂に接する北向き斜面の脚部にあり、大木の根元から滑るようにわき出している。現在の湧出量はそれほど多くないが、夏季と冬季で、それぞれ毎分一五・〇リットル、ハ・ーリットル程度の少量である。ここでは戦前までサワガニが多くとれたといわれるが、現在も極めて数は少ないものの確認することができる。湧水の周囲は近年激減しているカタクリ・二リンソウなどの野草がみられ、市域唯一の自生地となっている。しかし、谷頭部(こくとうぶ)付近はコンクリートなどの廃材の捨て場となっており、次第に谷地が埋め立てられているのが現状である。この結果、湧水の水質にはその影響とみられる傾向が示されている。
湧水地点4 (高尾阿弥陀堂南側の谷)
阿弥陀堂の南側には全長約一五〇メートル、幅約五〇メートルの谷地があり、その谷地と台地との比高差は約ー〇メートルである。この谷頭部付近には古くから豊富な湧水があることから、地元民はイケジリ(池尻)の名で呼んでいる。また、台地面には明治時代に廃寺となった泉蔵院(せんぞういん)の跡地がある。この寺号は泉の存在に由来していると推測されている。平成元年(ー九八九)五月ころから谷地斜面の土を削(けず)り取り、廃材や廃土で埋め立てて土地改変が進行しており、逃げ場を失った湧水が、砂利道に流れを求めている状態にある。こうした土地改変により、谷地の豊かな生物環境は壊滅的(かいめつてき)な状況にあるが、湧水の一部はかろうじて荒川沿いの休耕田に流入している。
湧水地点5・6 (高尾宮岡の谷)
荒井橋の北方三五〇メ ートル付近には、東方へ延びる比較的大きな谷地が発達している。その全長は約六〇〇メートル、谷幅は五〇~ー〇〇メートル、台地と低地との比高差はー〇~一四メートルの谷である。この谷は谷口から上流四〇〇メートル地点で南西と北東へ分岐(ぶんき)し、北東へ延びた谷はさらに東と南へ分岐してそれぞれの谷頭(こくとう)へ続いている。湧水はこのうち東方へ延びる谷の谷頭部(地点5)と、南方へ延びる谷の入口付近(地点6)に存在する。地点5の湧水は高尾氷川神社西側にあり、湧水によって形成された池の中ノ島には巌島神社が祀(まつ)られている。以前この池の中から地下水が湧出していたが、現在の池はコンクリートで護岸され、地中に差し込まれたパイプを通じて、湧水がしみ出している。湧水地点6は南方へ分岐した谷地のほぼ中央部にあり、二×三メ ートルの開口部底から湧出している。
この湧出量は夏季と冬季で、それぞれ毎分五五・ニリットル、二五・ニリットル、日量ではそれぞれ七九・五立方メートル、三六・三立方メートルになる。したがって、他の湧水地点と比べ、多量であることがうかがえる。地点5・6から湧出した水は新井良和宅の北側で合流し、台地沿いを西流して荒川左岸の田畑を潤(うるお)している。合流地点における平成元年(ー九八九)九月の水量調査では、毎秒一五・ ーリットルの水量である。この谷地のダンペイ坂より下流側では、昭和六十二年(ー九八七)から大規模な斜面林の伐採、斜面改変、廃材、廃土による埋め立てが行われ、市域を代表する斜面林や湿地などの自然景観が消失し、なかでも数少ないカタクリの自生地が失われている。こうした土地改変はさらに周辺地区へ波及していることから、近い将来湧水の質・量にも多大な影響を与えることが懸念(けねん)される。

表6 湧水の湧出量と水質

(各地点の上段は1990年8月28〜30日調査・
     下段は1991年2月16〜18日調査)

湧水地点7・8 (八重塚(やえづか)~城中(じょうちゅう)の谷)
石戸宿城ケ谷堤(じょうがやづつみ)の東側には、谷幅五〇~ー〇〇メートルの谷地が東方へ広がっている。この谷は堀ノ内へ続く支谷(しこく)のほか、荒井中岡・高尾城中・石戸宿九丁(くちょう)へ続く支谷など計六つの小谷が合し、本谷を中心に八ツ手状に谷地が展開している。これらのうち、上流部の高尾城中と石戸宿九丁に延びる両支谷に湧水を認めることができる。
高尾城中へ延びる谷は、本谷八重塚より北東へ分岐する支谷で、城ケ谷堤から西部公民館西側の谷頭部までの全長約ー・ーキロメートルである。湧水地点7は現在果樹園となっている谷頭(こくとう)部の緩斜面(かんしゃめん)から、滑るようにわき出ているもので、その湧出量は夏季と冬季で、それぞれ毎分ー〇・ハリットル、六・六リットルであまり多くない。また、この下流側数ー〇メートル付近からは生活雑排水の混入がみられ、湧水と合して側溝へ流れ込んでいる。湧水地点8は市指定文化財のエドヒガンザクラに接する谷地の中央部に位置している。水量の多い時期を除いて湧出点が定まっていないが、その痕跡(こんせき)を数地点でみることができる。
湧水地点9・10(八重塚~九丁の谷)
城ケ谷堤から東方へ延びる谷地は約八五〇メ ートル上流で南北に分岐するが、その分岐点付近(地点9)と南方へ延びる谷の谷頭部(こくとうぶ)部(地点10)の二か所で湧水が認められる。湧水地点9はヨシの繁(しげ)る湿地と梅畑との地境にあり、直径ーメ ートル程度の円形で皿状の底からわき出るものである。地元民によると、今までにまったく枯れることなく存在しているという。湧水地点10は北里研究所メディカルセンター病院の東側に入り込む谷地の谷頭部に位置しており、直径ーメートル、深さ五〇センチメートル程度の摺鉢状(すりばちじょう)の底からわき出ている。この湧出量は平成元年(ー九八九)九月の調査で毎秒二・九リットル、平成三年(一九九一)二月のそれで毎分〇・九リットル(毎秒一五ミリリットル)の値を得ている。噴出地点の下流側はヨシの密生する湿地で、周辺の雜木林とともに良好な自然環境を維持している。
しかし、北里研究所メディカルセンター病院北側の下流部は二〇〇メートルにわたって汚泥(おでい)・泥水・廃材・廃土などが、昭和六十二年(ー九八七)から廃棄されており、地下水系にとっては致命的な状況にある。この廃棄地脇(はいきちわき)の水路で流量調査などを実施したが、夏季と冬季でそれぞれ毎分七・九リットル、ーーー ・四リットルの水量を得た。この地点での水量は時期に応じて、その変動幅の大きいことが理解できる。この廃棄地を含めた下流側一帯は、市民の期待する県営の「北本自然観察公園」の中心に当たる。したがって、上流部での湧出量確保が強く望まれるとともに、台地上からの生活雜排水の浸透や下流側での汚泥廃棄の問題は、観察公園計画にとって、質的低下につながるものと考えられる。
湧水地点11(横田薬師堂下)
石戸宿の西側には一九七〇年代に荒川の河川改修工事に伴い残された旧荒川水路があり、ここは連日釣り人達でにぎわっている。湧水はこの旧荒川の北端部、台地べりに接して急崖をなす部分に位置し、台地を構成する砂礫層(されきそう)が露出(ろしゅつ)する地点から湧出している。したがって、谷地の底から噴出するそれとは趣(おもむき)が異なっている。ここから湧出した水は下沼耕地から旧荒川へ流れ込む用水に合流している。またこの湧水は市域内で最も多量に湧出するか所で、日量二〇〇~四〇〇立方メートルが湧出している。降水の在り方によってはこれ以上の湧出量が期待できよう。
かかる湧水か所における水質状況を概観すると、水素イオン濃度 (PH) は中性~酸性で、これは台地を構成する関東ロームの性状に左右されたことの結果である。電気伝導度(EC)、塩素イオン濃度 (C1-) は概(がい)して高い値を示しており、地下水の水質悪化の傾向が若干認められる。水質悪化の顕著な湧水か所は地点3の高尾阿弥陀堂北側の谷のそれで、電気伝導度、塩素イオン濃度とも最も高い値を示している。この湧水が存在する谷頭部は、近年コンクリー卜などの廃棄物の捨て場となっており、そのことが少なからず影響していると考えられる。
また、湧水の分布する背後の台地上には上尾バイパス道路が市域を南北方向に縦断するかたちで計画されている。そのため道路の施工方法や構造、さらに路面からの排水などが、湧水の集水域と水源にどのような影響を与えるかについて充分検討しておくことが必要である。
したがって、今後これらの湧水の保全・管理を行っていく場合には、かかる諸問題を行政と市民が一体となって考えていくとともに、身近にある貴重な市域の自然を総合的に捉える方向で検討していくことが期待される。

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