北本市史 通史編 自然

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第5章 北本の水文

第4節 水文環境の変化とその保全

図47 自然域と都市域の水収支

近年、大都市の周辺地域では都市化現象の進展が著しく、ますます都市的土地利用が拡大している。その結果、土地環境はもとより水文(河川・湖沼・地下水など陸上の水の状態や変化を水の循環の立場から考える)・気象環境に対してもそれが影響する。
図47は自然域と都市域における水の動き(水収支)を示した概念図(がいねんず)である。自然域においては、降水(P)のごく一部が表面流出(R)し、残りの部分は蒸発散(じょうはつさん)(E、地表面や水面からの蒸発と植物からの蒸散作用とを結合したもの)および地中への浸透水となり、後者は土壌水や地下水(G)の増加に寄与する。地中への水は、その一部が毛管(もうかん)作用により土壌中を上昇し蒸発散として失われ、一部は地中に地下水として貯留される。地下水は地中を流動するが、そのー部は湧水(S)などのかたちで地表に浸出して、河川を涵養(かんよう)する水となる。
また、自然域が都市化されると、その地域の水文環境は大幅に変化する。図48は都市化に伴い生じる土地・水文環境の変化過程を示したもので、人間活動により台地や低地で開発行為が行われた場合、土地環境に変化がみられる。
たとえば、宅地開発などの進展により樹林を伐採したり、農地を切土・盛土して地表形態を改変すると、次には改変した土地に人工的な諸施設がつくられ、本来の土地のもつ自然機能は著しく減退する。こうした土地利用の変化と相俟(あいま)って降水-流出システムを中心に、その地域の水文循環(じゅんかん)に対して変化が生じる。さらに地下水の存在状態にも大きく関与してくる。
一方、都市化の現象を水文的立場からみると、その特徴の一つは不浸透域の増加である。都市の地表面は家屋やビル、コンクリート・アスファルト道路などの占める割合が大きくなり、農地や緑地のそれが小さくなる。不浸透地表面では、降水は地中へ浸透する機会を失い、流出率を増大させて、河川の流下速度とピーク流量を増大させる。また降水による地下水の浸透量が減少するため、貯留効果は小さくなり、河川の基底流量は著しく減少する。
さらに流出経路は側溝、排水路、下水路の影響を受けることになり、平常時の河川水最は都市・工業活動や家庭の雜排水により規定される。このように都市化現象は水文環境に変化を与えるとともに、水の循環(じゅんかん)を通して地表面からの蒸発を阻止することとなり、水収支・熱収支に変化を与え、地域(流域)全体の土地システムに大きく関与する。


図48 都市化に伴う土地・水文環境の変化

現に市域においても都市化現象は顕著で、その発展段階に応じて緑地の減少、地下水の水位低下、湧水の量の減少・枯渇(こかつ)、自然河川の一部が消失して排水路化するなどの状況にある。特にJR高崎線や中山道沿いの旧市街地を中心に都市化が著しく、市民が身近かな河川・用水といった「水」との接点を失っている。
しかし、その一方では都市化が進むと自然の回復・保全に対する要望が高まるようになり、最近では中小河川も親水性が期待されるようになってきた。親水性の検討に当っては、まず水源となる湧水などの現状把握が必要である。市域の中小河川、梅沢水路・勝林水路(かっぱやしすいろ)(江川)は地下水位の低下に伴い、その影響を直接受けているが、市域西側の台地を刻む谷や崖には、前節で述べたように湧水が残存する。湧出量は必ずしも多くないが、谷地の水田や生物などの貴重な水源となっている。湧水が現存する地区の特徴をみると、湧水か所の背後は大半が高い台地で、雜木林や農地が広がる景観を呈しており、それが湧水の涵養効果(かんようこうか)を永続させている。こうした小さな湧水は市内の貴重な水源として充分活用できるとともに、環境保全の立場からも重要である。
したがって、今後はどのように市域の自然・水文環境を維持し、保全・管理していくのが望ましいかを、市域の土地利用・都市計画の策定(さくてい)の際に水や緑、さらに動・植物を含めたかたちで総合的な立場から検討していくことが期待される。これは市民と行政にとって課せられた二十一世紀へ向かっての課題でもある。

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