北本市史 通史編 自然

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第6章 北本の生物

第3節 台地の生物

2 台地の動物

市域の大部分は台地上に分布し、大宮台地のほぼ北の端にあたり、海抜は荒井・高尾付近が最高となる。
温暖気候期の縄文海進が関東平野のかなり奥地まで入り込んだころの市域には、クリやクヌギ、コナラ、スダジイなどの実(ドングリ)や、木の根・草の葉を食べて育つ各種の動物が増え、ホンシュウジカやニホンイノシシのような大型動物も増加した。当時の古代人は食糧、衣料、細工用に盛んに捕獲(ほかく)したようで、大宮台地では谷地の周辺の台地上に多い住居跡などから、これらの獣骨が出土することがある。
農耕が行われるようになっても、鳥獣は相変わらず狩猟の対象となったので、明治五年(一八七二)に村田銃(むらたじゅう)が完成するに及んで捕獲数が急増し、大型動物は絶滅した。
昭和の初期までの市域の台地上には、旧中山道沿いに家並みが続いていたが、ほぼ全域に雑木林が発達していた。林が途切れた辺りには畑地が現れて、ところどころに農家が見られ、その先は再び雑木林が続くというような静かなたたずまいの農村地帯であった。
まだその時代は、ホンドイタチ、ニホンアナグマ、ホンドキツネ、キュウシュウノウサギが多く生息していた。アズマモグラやホンドイタチは、現在もかなり各地でみかけることがある。
昭和十年代までの大宮台地には、大宮・上尾・桶川・北本と見事な雜木林が続いていて、よく手入れされた林内に入ると、カタクリ、ジュウニヒトエ、シュンラン、キンラン、ギンラン、エビネ、イチヤクソウ、センブリなどの林の下草がどこにでも生え、キュウシュウノウサギやタヌキ、キツネなどが突然姿を現すことがあった。初夏にはアカシジミ、ウラナミアカシジミはもちろんのこと、クロオオアリの巣の中で幼虫時代を過ごすクロシジミという蝶が美しく舞っていた。夏、子供たちは手作りの捕虫網持参で、セミ取りやトンボ取りに明け暮れた。秋には野生の栗の実やキノコがいくらでも収穫できた。
国鉄高崎線北本宿駅(現在のJR北本駅)の開業に伴う商住地の拡大や、太平洋戦争末期からの食糧増産の必要性から、雜木林の開墾は急速に進み、台地上には畑、低地には水田の耕作面積が増えてきた。
その後、昭和三十五年(一九六〇)ごろを境にして、市域の自然環境は急変する。高度経済成長は林地・畑地の面積を急速に狭め、市街地が広がって野生生物の生活場所は各地で消滅しはじめた。それにもかかわらず、市域は大宮台地で最も自然が残っている地域である。市当局も多くの市民も、残された自然の保全に積極的である。現在の市域にみられる野生の動植物を調査し記録するために、平成二年度から北本市自然環境調査が実施され、乱開発を防ぐための資料作りが行われている。それらの調査結果を基にしてみると、台地の動物の現状は次のとおりである。
(一) 脊椎動物(せきついどうぶつ)
ほ乳類
市域には六科一二種が生息している。中型のタヌキ、キツネ、ウサギの三種が台地とその周辺から発見されている。
タヌキ(ホンドタヌキ)は木の根元、岩穴、排水口などに巣を作り、ネズミ、カエルやザリガニ、それにカキやアケビなどの果実を食べている。市域では平成二年(一九九〇)ころまで、主として市の西部地域で姿を現し、高尾(ダンペイ坂・阿弥陀堂)で同時に数個体が、宮内(十七号バイパスの東)、石戸宿(北本自然観察公園)、下石戸下(公団北本団地北側)でも付近の住民が目撃している。
キツネ(ホンドキツネ)はみずから巣穴を掘ることができ、主としてネズミ、ウサギ、小鳥、昆虫を食べている。昭和六十三年(一九八八)に高尾(宮岡氷川神社付近)で記録されており、平成四年(一九九二)まで石戸宿(八重塚山(やえづかやま)付近)で発見された。
ウサギ(キュウシュウノウサギ)は一般に夜行性で、樹木の葉や皮、草などの植物食である。市域では荒井・石戸宿などでいまも姿を現すが、生息個体数は少ない。時に飼い兎(うさぎ)が逃げ出したものがみられる場合もあるという。
小型のものでかなり多いのはコウモリ(アブラコウモリ)である。イエコウモリとも呼ばれていて、夕方に市内のほぼ全域で活発に飛び回る。
ハタネズミ(ホンドハタネズミ)は、昔から知られているツツガムシ病を媒介(ばいかい)するアカツツガムシというダニの中間宿主である。
市の東部の古市場(県立北本高校付近)でも発見されたが、石戸宿の附歩(つけぶ)から荒井の北袋までの荒川河川敷に多い。市内では平成三年(一九九一)にツツガムシ病の患者が発生し、荒川沿いの生息可能な地域に薬剤散布を実施した。
昭和三十年ごろまで、各地の住宅や商店でクマネズミとドブネズミが多くみられたが、その後の住環境の変化により最近は減少している。
鳥類
市域では平成元年(一九八九)までに三八科一三五種が確認された。市内の住宅地・公園・あるいは雑木林で普通にみられる野鳥は、スズメ、ヒヨドリ、ムクドリ、オナガ、ハシブトガラス、ハシボソガラス、カワラヒワ、ホオジロ、モズ、セグロセキレイ、ヒバリ、キジバト、コゲラなどである。冬鳥ではカケス、シメ、アオジ、カシラダカ、ウグイス、ツグミ、アカハラ、ジョウビタキが、夏鳥ではツバメがみられる。
市の西部地域に多い斜面林でキジ、コジュケイが大きな声で鳴いたり、突然姿を現したりする。一方、最近はサンコウチョウやサシバなどの姿をみる機会がへってしまったが、国指定天然記念物で越谷市付近に多い県の鳥シラコバ卜が分布域を拡大し、市内で普通に見られるようになった。
両生・爬虫類(はちゅうるい)
爬虫類で各地に多いのはニホンカナヘビである。本種はヘビではなく一般にトカゲと呼ばれ、体が茶褐色で尾の長い動物である。本当のトカゲ(ニホントカゲ)は、体は青緑色でギラギラ光る鱗(うろこ)で覆われている。この種は昭和三十年ごろまではかなり普通に見られたのに、その後急に個体数が減った。両種とも昆虫やミミズなどを食べて生活する。また、今まで記録のなかったニホンヤモリが平成五年(一九九三)に本町(北本中学校)で確認された。
ヘビ類はアオダイショウを除きかなり個体数を減少しており、昭和三十年ころまで各地で見られたシマヘビ、ヤマカガシはもちろん、ヒバカリ、ジムグリなどは、生活適地の減少などの悪条件が重なり、ほとんど姿を消した。
(二)無脊椎動物(むせきついどうぶつ)
昆虫類では、かつて大宮台地上の雜木林などに生息していたが、現在ほとんどの地域で姿を消してしまった種類はかなり多い。しかし石戸宿・高尾などの林では、今だにそれらの大部分の種が見いだされる。
雑木林の昆虫類
甲虫類ではカブトムシ、ノコギリクワガタ、コクワガタが多産する。また個体数は少ないがタマムシやコカブトムシが生息していることは注目すべきことである。地表性甲虫ではヒメマイマイカブリ、アオオサムシ、クロナガオサムシなどもかなり多い。

写真22 カブトムシ

写真23 ノコギリクワガタ

蝶類で多いのはキチョウ、ミズイロオナガシジミ、ゴイシシジミ、イチモンジチョウ、コミスジ、ゴマダラチョウ、ヒカゲチョウ、
ヒメジャノメ、サトキマダラヒカゲである。稀にテングチョウ、アカシジミ、ウラナミアカシジミ、トラフシジミ、コツバメ、アサマイチモンジ、ルリタテハ、コジャノメが見られ、ミヤマセセリも現存する。

写真24 イチモンジチョウ

写真25 アサマイチモンジ

写真26 アカシジミ

写真27 ウラナミアカシジミ

蛾類(がるい)では、大型で後ろ羽が美しいカトカラ類のコシロシタバ、マメキシタバ、キシタバ、ジョナスキシタバが多産し、フシキキシタバという稀種が東日本では埼玉県久喜市についで石戸宿が二番目の産地として著名である。
セミ類では二イニイゼミ、アブラゼミ、ヒグラシ、ツクツクボウシ、ミンミンゼミが多く、最近でも石戸宿付近のアカマツ林でハルゼミの鳴き声を聞くことができる。最近はアカスジキンカメムシという緑色に赤い筋の入った美しい大型カメムシがかなり目立つようになってきた。
草地や畑地の昆虫類
蝶類が目立ち、キアゲハ、モンキチョウ、モンシロチョウ、ベニシジミ、ヤマトシジミ、ツバメシジミ、キタテハ、ヒメウラナミジャノメ、ギンイチモンジセセリ、イチモンジセセリが多産する。稀に、ジャコウアゲハ、ウラナミシジミ、ジャノメチョウ、ミヤマチャバネセセリが散見される。
蛾類ではカノコガ、シロヒトリ、ベニスジヒメシャク、ヨモギエダシャクなどが多い。また、オオウンモンクチバやカギバトモエなどの大型種とともに、芝につくシバツトガ、スジキリヨトウおよびワモンノメイガが優占(ゆうせん)している。野菜畑では害虫のシ口オビノメイガ、コナガなどが目立つ。
石戸宿には現在も野生のスズムシがかなり多く、八ヤシノウマオイも少なくない。クツワムシは激減したが、現在も少数生息しているようである。甲虫類では、草木の若い枝にアリマキがつくとそれを食べにテントウムシ類のテントウムシ、ナナホシテントウ、ヒメカメノコテントウが集まる。一方、畑などのナス科植物の葉を食害するニジュウヤホシテントウが多い。

写真28 スズムシ

写真29 アカスジキンカメムシ

住宅地の昆虫類
蝶類では、クスノキを植えるとアオスジアゲハが、ユズ、ミカン、カラタチ、サンショウにはアゲハ、クロアゲハが発生する。ハナダイコン(ショカツサイ)にスジグロシロチョウ、庭のカタバミにはヤマトシジミ、ヤマノイモの葉にダイミョウセセリ、タケ、ササにはサトキマダラヒカゲが多い。ミカン科植物には稀にカラスアゲハが見られる。
蛾類(がるい)ではチャドクガが発生し、幼虫(毛虫)がツバキ、サザン力について住民に被害を及ぼすことがある。カキなどにつくアメリカシロヒトリは昭和三十年代をピークにして最近は平衡状態(へいこうじょたい)に入っている。同じころから桜のソメイヨシノなどに多かったオビカレハという蛾が激減した。マサキの垣根にはユウマダラエダシャクやミノウスバが、ヒサカキの葉にはホタルガが発生する。壁やブロック塀などに生い茂るツタの葉にはトビイロトラガ、ザクロの木にはホソオビアシブトクチバが普通に発生する。

写真30 ドクガ

写真31 チャドクガ

昔はごく普通に見られたクツワムシやタマムシなどはほとんどみられなくなったが、その反面アオマツムシという帰化昆虫が、昭和六十年(一九八五)ころから主として幹線道路の街路樹について分布を広げ、八月の末から十月までの夜間、樹上で「リュ—リュー」と大きな声で鳴きつづけている、運転中の自動車の窓越しでさえ聞こえてくるほどであり、最近は住宅地の庭に植栽(しょくさい)されたウメ、ハクモクレン、カキなどの広葉樹でも発生している。石戸宿の桜堤にも大発生している。
昭和三十年(一九五五)ころまでは、各種の蛾類、カナブン類、フウセンムシ(主としてコミズムシ)など夜間灯火に飛来する昆虫類はかなり多かった。しかし住宅が多くなったことや街路灯などの照明が増設されたこと、昆虫類の生息地が少なくなったことなどの悪条件が重なり、昭和五十年(一九七五)ころから夜行性昆虫類の飛来はほとんど見られなくなった。最近はほとんど家庭において窓に防虫網戸を設置しているが、夜行性昆虫の飛来防止よりもアカイエカやヤブカなどの蚊(か)や、イエバエ類など衛生害虫の侵入を防ぐことに役立っている。
室内の衛生害虫の内、ヒトノミ、コロモジラミはDDTやBHCなどの合成化学薬品の散布により昭和三十年ころを境にしてほとんど姿を消した。その代りゴキブリ類のクロゴキブリやチャバネゴキブリはかなり増加し、ごく小型の外国産のアリまで定着した家庭も見られるようになった。

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