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第11章 伝説・世間話・昔話・諺

第3節 昔話

23 人間の寿命
昔々、大昔のその大昔ね。
天の神がこの地球にお下りになってね。あらゆる動物に寿命をお授けになることになったんですって。それで、「日本中の動物よ、集まれ。」とね、号令をかけたんですって。そうしたところが、そこへまず第一に集まってきたのが犬でね、「もし、天の神様。寿命を授けてくださるそうですが、私は犬ですがいくつばかり寿命をいただけるんでしょうか。」と聞いたところが、天の神様がいうには「そうさなあ、おまえには五十年の寿命を与えてやろうか。」と、こういったんだそうです。そうしたところが犬はおどろいちゃってね、どうしましてとんでもない話だ、と。「私は、元来イヌという名前がついているんで、この世の中に居ないのがたてまえなんで、居ぬなんだから、それを五十年も生きながらえていれば人さまにじゃまにされる。」「それより、私は五年も生きれば結構ですから、五十年のうち四十五年の寿命はお返しします。」といって、五年しか寿命をいただかなかったんだそうです。
そこへ、こんだ猿がやって来て、「私はそれじゃあ幾つばかり寿命をいただけるんでしょうかね。」といったところが、「そうだなあ、拙者も天の神だから不公平なことは出来ないから、犬に五十年の寿命を与えたんだから、お前にも五十年の寿命を与える。」といったところが、お猿さんがそらあとんでもない話だ、と。「どうしまして、とんでもない。私は元来サルという名前がついている。サルというのはこの世を去る意味なんで、 そんなに長生きするとあらゆる動物にじゃまされるから私も五年も生きれば結構です。四十五年間はお返しします。」ってわけで、四十五年に四十五年、つまり九十年、誰ももらいてのない寿命がのこっちゃたんですってね。
そこへ今度人間がやって来たんですって。「私も実は寿命をいただきにきたんですが、私はいくつばかり寿命がいただけたもんでしょうか。」って聞いたところが、天の神がいうには、「お前は、人間だな。人間というやつは万物の霊長だとかなんとか威張りくさっていて、天のいうことなんか聞くんじゃねえ。お前にはこれといった寿命は授けねえ。まあ、平均寿命五十年はやるから、いくつまでも勝手に生きろ。」と、こういったんだそうです。
それがあるために人間は五十歳までは、なから正気でまじめに生きられる。五十過ぎると、犬の年その猿の年その生きるからぼけちまう。犬になったり猿になったり。だから、わしらのように八十歳までも生きるとね、はあ、豚だか猿だかわかんなくなっちまう。そういう話なんです。
それで、いちがさかえです。
  ▽話者・・・新井宇一郎さん(同前)

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