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第3章 農業と川漁

第4節 養蚕と桑苗生産

5 桑苗の生産

桑苗の生産方法
桑苗の生産方法は、シロダシ(代出)、セツボク(接木)、トリキ(取木)、ミショウ(実生)の四種が代表的な方法であった。この内、中丸地区を代表する北足立郡で最も生産の多い株苗法が代出であり、それによる生産量は児玉郡を抜いていた。代出とは、不完全な原苗をさらに一年間養生して良苗とすることである。その原苗は、自家で作ることもできるが昭和初期には茨城方面から買っていた。原苗はマゲギと呼ばれ、仲介する業者がいて売り込みに来ていた。桑苗生産者は仕入れると最初の作業を四月ころに行う。それは新芽が幾つも出た長さ一尺五寸程のマゲギを、芽が三つ程付いた長さで幾つかに切り分けることから始める。切り分けたものをサンズンと呼び、一番上の芽が成長し桑苗となる。これを麦の畝間に植えていく。一尺に三本半程植える間隔で、一本ずつ向きをはすっかいに立てていく。六月ころになると桑は発芽し伸び出す。施肥は、麦を五月下旬~六月初旬に刈り取り、発芽してから苗の根元近くにかけてやる。その後冬までは、除草くらいの作業である。掘り取りは一月ころで、完全に落葉してから行う。そのため、陸稲と違い桑苗を作る畑にすると、秋に麦を蒔けないことになる。
接木は実生苗に別の品種をつぐ桑苗法で、改良品種の増産にむいた方法であった。接木に用いる実生苗の種は八月ころに、条播(じょうは)のようにあまり間隔をあけず蒔く。そして冬の間に悪い実生を間引きしておき、一月に実生掘りをする。この実生を地面から一〇センチほどで上を切り捨て台木とし、増やしたい品種を穂木として接ぐ。接ぎ穂は芽が二つか三つある、三寸程の長さである。台木も穂木も接ぐ切り口は、良く切れる切出で斜めにきれいに切り、切り口を合わせたら藁を巻き付けて縛り止める。桑苗生産を本格的にやる家では、手が足りず藁巻き作業に五、六人の男衆を一カ月程雇っていた。藁巻きした苗は畑に畝幅二尺程のサクを切り、溝の方に仮イケ(仮植)する。そして、三月になったら畑へ二、三寸間隔で本イケする。本イケは一反に一万本が目安で、多い家では四、五反、つまり四、五万本の桑苗を生産したのである。出荷は秋麦蒔きが終えるころから始まる。出荷する苗の丈は二尺で、あまり長いものは芯をつめる。そして桑苗は検査員の検査制度があり、一等から三等まで等級に分けられた。これは、苗の根元・メグリ(太さ)などで規格があり、それで分けられ、相場が決められた。出荷に向かぬ悪いものは切り直して植え、仕立て直して翌年の出荷とした。仲買の桑苗木屋に渡されるのは、十一月から十二月にかけてであった。
取木は曲取(まげとり)法とも称し、桑苗の原木を自家の桑園から生産する方法で、品種は固定してしまうが、桑苗を自給するには、この方法で行われた。曲取は七月ころ、親株の枝を地に着くまで曲げ、地のなかに埋める。そして、親株から勢いのある芽が出ないように、株全体にも土をかけてしまう。こうしておくと、埋めた枝から発根するので、翌春親株から切り離し苗とする。この取木法で苗を取ったあと、親株側に残される枝はマゲ(曲げ)と呼ばれ、これも発根するので代出法の原苗となつた。
実生は桑の実(ドドメ)を四月にまいて、秋に一尺位になったら抜いて、出荷する桑苗法であった。

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