北本の守り札 守札の概要と分類

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第1章 守札の概要と分類

第6節 信仰上からみた分類

(四)信心

図51 信心に関する守札の種別割合

ここでは(一)~(三)以外の神仏への信仰色が強い守札を扱い、大般若経、虚空蔵菩薩、諸願成就、月参、大祓に分類した。図51のように大般若経が四八点、四四.〇%と最も多く、次いで月参のニ一点、一九.三%、虚空蔵菩薩の一八点、一六.五%、諸願成就の一三点、一一.九%と続く。

①大般若経
『大般若波羅密多経』は、奈良・平安時代から諸大寺で鎮国除災を祈って転読が行われた。転読とは経文を読誦する真読に対して、六百巻を一二人の僧が五十巻ずつ分担し、一巻ずつ短い経文を誦しながらめくり、読経に擬するものである。後世になると国家安穏・災害消除の祈祷行事として、しだいに真言宗、天台宗、禅宗など、全国の名刹でも行われるようになり、さらには地方の寺院や民間にまで広まった。
図52(102—1)は羽黒修験行力院が発行したもので「   (ジタマン) 奉転読大般若経/    (カーンマン)護摩修法/御祈祷札」の文字が、図53(62—1)は草津山光泉寺が発行したもので「   (ジニャ)奉転読大般若経六百軸家内安全祈攸」の文字がある。これらは『大般若経』の御利益にあずかるため、六百巻の転読をし、七難即滅七福即生を願い、家内安全を祈祷した守札である。また図54(63—10)は羽黒山先達左門坊の守札で、「   (アーンク)湯殿/月山/羽黒/三山御巻数」という文字があり、出羽三山の御巻数を転読し、災厄消除招福を祈願したものであろう。

図52 (102-1)

図53 (62-1)

図54 (63-10)

②虚空蔵菩薩

図55 (71-1)

虚空蔵菩薩は虚空のような広大無辺の福徳智慧をもって衆生の諸願を成就させる菩薩である。この徳性が民衆に受け入れられ、祈願の対象となったものであろう。図55(71—1)は伊勢の朝熊岳普明院が発行した守札で、「虚空蔵御札」の文字がある。虚空蔵菩薩の守札は、鈴木家では朝熊岳普明院のみが認められた。

③諸願成就

図56 (33-3)

特定の願いに限らない守札で「福寿増長」(60—1)などもこの類であろう。図56(33—3)は「   (バク)奏修子大権現本地供諸願成就祈所」の文字がある。

④月参

図57 (28-4)

月参とは月ごとに神社に詣でることをいう。鈴木家では愛宕山大善院 (京都府京都市)の守札が二一点認められた。図57(28-4)はその一例である。

⑤大祓
人あるいは物、場所などについて、その汚穢、罪障、災厄などを除するための儀礼が祓いである。一般には榊に付けた木綿垂を頭上で払うもので、今日でも地鎮祭などの際にみられる。図58(A49)は発行元が不明であるが「鎮守神前大祓之神璽」の文字が、図59(44—12)は「御嶽山/大々御神楽御祓」の文字がある。後者は、神楽奉納に当たり、賛助金を拠出した証しに授与された守札であろうか。

図58 (A49)

図59 (44-12)

以上、紹介した守札は、願いや、守護の対象がわかるものである。その数は七五一点で、守札の総数一五一〇点のほぼ半数を占める。残る七五九点のうち一六三点は図60(E2)の「御守護」、図61(G34)の「鼠除御守護」のような文字に限られ、発行元の社寺はわからない。また、その逆に五七九点は図62(44-27)のように、寺社名のみが記されるものの祈願の内容はわからない。さらに、一七点は分類不能の守札であった。

図60 (E2)

図61 (G34)

図62 (44-27)

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