デーノタメ遺跡 各種分析の概要
第4章 各種分析の概要
第1節 デーノタメ遺跡から出土した木材・大型植物遺体の14C年代測定
分析結果と若干の考察14C年代測定結果を表1および図1に示した14C年代はAD1950年を基点として何年前かを示した年代であり、半減期はLibbyの5568年を使用した。得られた14C年代は、OxCa14.2(Ramsey,2009)を用いてlntCa113(Reimer et al.,2013)の較正曲線を使用して較正し、確率分布の2δの範囲を示した。
得られた14C年代測定結果を縄文時代中期から後晩期の土器付着炭化物の14C年代測定結果(小林2004;工藤2012など)と対比した。以下に遺構関係の試料と、花粉分析関係の試料に分けて記述する。
1) 遺構遺構関係の試料
1号木組などから出土したウルシ材は、縄文時代中期後葉の加曽利E4式から称名寺2式頃に相当する年代であった。較正年代ではおおよそ4800~4200 cal BPの間に位置づけられる。1号木組の構成材には年代に開きがあり、1号木組No.107が他と比較して古い。1号木組がやや長期的に使用された遺構なのかどうか今後出土土器型式と合わせて検討が必要である。
1号~6号クルミ塚の試料はいずれも縄文時代中期の年代を示し、おおよそ5300~4600 cal BPの間に位置づけられる。6号クルミ塚の覆土最下層の試料(No.16)が中期中葉の勝坂式期で最も古い年代を示したが、覆土最上層の試料(No.15)が中期後葉の加曽利E2式頃と時間差があった。2号クルミ塚の試料も同様に加曽利E2式頃に相当する。1号・3号・4号クルミ塚の試料は加曽利E3式頃に相当する年代であった。
6号土坑の覆土最下層から出土した炭化ダイズ属は4240~4090 cal BPで、縄文時代後期前葉の堀之内1式頃に相当する年代であった。
3号溝状遺構の最下層においてニワトコやコウゾ属が大量に出土した層準から採取したトチノキ炭化種子は、4090~3930 cal BPの年代を示し、おおよそ縄文時代後期前葉の堀之内2式期に相当する年代であった。
一方、2号溝状遺構についてはかなり新しい年代であり、覆土最下層の種実および中位層の板状木製品は1875~1735 cal BP(75~215 cal AD)の年代を示した。これは、弥生時代後期に相当する年代であるが、この間の較正曲線は日本産樹木と欧米産樹木でズレがあることが知られており(尾嵜2009)、IntCa113では実際よりやや古い較正年代が得られている可能性がある点は注意しておきたい。なお、覆土最上層の木材は1690~1540 cal BP(260~410 cal AD)であり、おおよそ古墳時代前期に相当する年代であった。
2) 花粉分析を実施した調査区南東部および南部の壁面柱状サンプルの試料
調査区南東部壁面柱状サンプルでは、当初は縄文時代中期と考えていたNo.1・No.2・No.3のいずれも縄文時代後期初頭の年代を示した。較正年代では4520~4095 cal BP頃に位置づけられる。
一方、調査区南部壁面柱状サンプルでは、基盤層から採取した試料(No.8,No.9)と、中期(№7)および後期(No.6・No.5)の遺物を包含していた層で年代に大きな差はなく、いずれも縄文時代後期中葉の加曽利B1式期頃に相当する年代であった。較正年代ではおおよそ3975~3720 cal BP頃に位置づけられる。基盤層の試料は、縄文時代後期層の試料を誤って採取したものの可能性があり、基盤層の年代を示すものではないと考えて良いだろう。これらの後期層を覆っていた無遺物の黒褐色草本泥炭層に含まれていた炭化材は、3070~2955 cal BPの年代を示し、縄文時代晩期前葉の安行3b式期頃に相当する年代であった。
なお、今回の分析は、文部科学省科学研究費補助金基盤研究A「縄文時代前半期における森林資源利用体系の成立と植物移入の植物学的解明」(代表:能城修一)(研究課題番号:24240109)の一部を使用して実施した。
引用文献
尾嵜大真 2009.「日本産樹木年輪試料の炭素14年代からみた弥生時代の実年代」設楽博己・藤尾慎一郎・松木武彦編「弥生時代の考古学1 弥生文化の輪郭」225-235 雄山閣.
工藤雄一郎 2012.「旧石器・縄文時代の環境文化史-高精度放射性炭素年代測定と考古学-」 新泉社.
小林謙一 2004.「縄紋社会研究の新視点:炭素14年代測定の利用」 六一書房.
Bronk Ramsey,C.2009.Bayesian analysis of radiocarbon dates.Radiocarbon 51-1:337-360.
Reimer P.J., Bard,E.,Bayliss,A.,Beck,J.W.,Blackwell,P.G.,Bronk Ramsey,C.,Buck,C.E.,Cheng,H.,Edwards,R.L.,Friedrich,M.,Grootes,P.M.,Guilderson,T.P.,Haflidason,H.,Hajdas,I,Hatt,C.,Heaton,T.J.,Hogg,A.G.,Hughen,K.A.,Kaiser,K.F.,Kromer,B.,Manning,S.W.,Niu,M.,Reimer,R.W.,Richards,D.A.,Scott,E.M.,Southon,J.R.,Turney,C.S.M.,van der Plicht,J.2013.IntCal13 and MARINE13 radiocarbon age calibration curves 0-50000 years cal BP.Radiocarbon 55(4),1869-1887.
吉田邦夫 2004.「火炎土器に付着した炭化物の放射性炭素年代」新潟県立博物館編「火炎土器の研究」17-36 同成社.
第27図 デーノタメ遺跡出土資料の14C年代の暦年較正結果(IntCal13による)
管理番号 | 資料情報 | 資料番号 | 層序など | 番号 | 種類 | 備考1 | 備考2 | 測定番号 | δ13C (%0) | 14C 年代 (yrBP±1δ) | 暦年較正用 14C年代 (yrBP±1δ) | 較正年代 cal BP (IntCal13)2δ |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
2016-006 | №10 木片板目材 | DTM-40 | ウルシ材 | PLD-32002 | -29.00 ±0.16 | 3825±20 | 3823±21 | 4295-4145(94.8%) 4110-4100(0.6%) | ||||
2016-007 | 1号木組№107 | DTM-167 | ウルシ材 | PLD-32003 | -30.37 ±0.15 | 4105±20 | 4104±22 | 4810-4755(23.3%) 4700-4670(7.6%) 4650-4525(64.5%) | ||||
2016-008 | 1号木組№115 | DTM-182 | ウルシ材 | PLD-32004 | -28.75 ±0.14 | 3925±20 | 3927±21 | 4430-4290(95.4%) | ||||
2016-009 | ラベル紛失丸木 | DTM-204 | ウルシ材 | PLD-32005 | -28.26 ±0.14 | 4045±20 | 4047±22 | 4780-4770(1.5%) 4580-4435(93.9%) | ||||
2016-010 | ウルシ割り材 | DTM-1085 | ウルシ材 | PLD-32006 | -26.35 ±0.19 | 3845±20 | 3843±22 | 4405-4365(6.3%) 4355-4325(8.2%) 4300-4150(80.8%) | ||||
2016-033 | 1号木組遺構 | No.22 | ― | No.1 | 枠材(みかん割) | カエデ属(DTM-181) | 木組み遺構の再利用の 可能性を示す材。資料 24との年代差を確認 | PLD-32346 | -30.50 ±0.19 | 4005±20 | 4005±21 | 4525-4420(95.4%) |
2016-021 | 1号クルミ塚 | No.10 | - | ― | オニグルミ核(乾燥) | 中期 | 中期遺構 | PLD-32334 | -24.93 ±0.29 | 4235±20 | 4233±22 | 4855-4810(75.3%) 4755-4705(20.1%) |
2016-022 | 2号クルミ塚 | No.11 | - | ― | オニグルミ核(乾燥) | 中期 | 中期遺構 | PLD-32335 | -27.37 ±0.24 | 4370±25 | 4372±23 | 5035-5015(5.4%) 4980-4860(90.0%) |
2016-023 | 3号クルミ塚 | No.12 | - | ― | オニグルミ核(乾燥) | 中期 | 中期遺構 | PLD-32336 | -28.27 ±0.27 | 4250±25 | 4249±23 | 4860-4820(91.6%) 4750-4725(3.8%) |
2016-024 | 4号クルミ塚 | No.13 | - | ― | オニグルミ核(乾燥) | 中期 | 中期遺構 | PLD-32337 | -31.53 ±0.23 | 4135±20 | 4134±22 | 4820-4750(28.2%) 4730-4565(67.2%) |
2016-025 | 5号クルミ塚 | No.14 | 下 | ― | オニグルミ核(乾燥) | 中期 ※覆土 最下層 | 中期遺構※上坑状遺構の掘削時期に近い最下層出土 | PLD-32338 | -27.68 ±0.19 | 4260±25 | 4260±23 | 4865-4825(95.4%) |
2016-026 | 6号クルミ塚 | No.15 | 1 | 1002 | オニグルミ核 | 中期 ※覆土 最上層 | 中期遺構※凹地状のクルミ主体の植物遺体層の上層出土 | PLD-32339 | -26.49 ±0.22 | 4360±20 | 4359±22 | 4975-4855(95.4%) |
2016-027 | 6号クルミ塚 | No.16 | 4 | 1005 | オニグルミ核 | 中期 ※覆土 最下層 | 中期遺構※凹地状のクルミ主体の植物遺体層の最下層出土 | PLD-32340 | -28.91 ±0.26 | 4510±20 | 4508±20 | 5295-5210(30.6%) 5195-5050(64.8%) |
2016-034 | 2号溝状遺構 | No.17 | 1 | 1057 | 木材(生木) | 時期不明 ※覆上最上層。 2016-028の代替。DTM-119 | 2号溝状遺構の最上層で、木材集横を含む層出土 | PLD-32341 | -29.46 ±0.23 | 1690±20 | 1690±20 | 1690-1670(7.5%) 1625-1540(87.9%) |
2016-029 | 2号溝状遺構 | No.18 | ― | SD2 No.2 | 板状木製品(板目・ 板) | 時期不明 ※コナラ属コナラ節(DTM-124) | 覆土中位層から出土した4点(一括資料)の木製品のうちの1点 | PLD-32342 | -30.23 ±0.19 | 1875±20 | 1876±19 | 1875-1735(95.4%) |
2016-030 | 2号溝状遺構 | No.19 | 11上 | 1067 | トチノキ未熟果 | 中期 ※覆上最下層 | 2号溝状遺構の掘削時期に最も近い最下層出土 | PLD-32343 | -30.26 ±0.31 | 1875±20 | 1875±19 | 1875-1735(95.4%) |
2016-031 | 3号溝状遺構 | No.20 | a2 | 83 | トチノキ炭化種子片 | 後期 ※3号溝最下層(ニワトコ・コウゾ多量出土層) | 3号溝状遺構の最下層で、ニワトコ・コウゾ種子の多量包含層 | PLD-32344 | -26.70 ±0.21 | 3685±20 | 3686±21 | 4090-3965(92.8%) 3945-3930(2.6%) |
2016-032 | 6号土坑 | No.21 | 3 | 74 | ダイズ属炭化 | 後期 ※覆土最下層 | 6号土坑の掘削時期に近い、最下層出土 | PLD-32345 | -25.48 ±0.22 | 3790±20 | 3788±21 | 4240-4135(71%) 4130-4090(24.4%) |
2016-012 | 調査区南東部壁面柱状サンプル | No.1 | Ⅱa | 1052 | サンショウ種子 | 中期遺物包含層 ※花粉分析、珪藻分析済 | 花粉分析等実施済の縄文中期層 | PLD-32325 | -31.90 ±0.21 | 3910±20 | 3908±21 | 4420-4285(92.3%) 4275-4255(3.1%) |
2016-013 | 調査区南東部壁面柱状サンプル | No.2 | Ⅱb | 1053 | エゴノキ核 | 中期遺物包含層 ※花粉分析、珪藻分析済 | 花粉分析等実施済の縄文中期層 | PLD-32326 | -32.42 ±0.18 | 3805±20 | 3807±18 | 4245-4145(91.7%) 4120-4095(3.7%) |
2016-014 | 調査区南東部壁面柱状サンプル | No.3 | Ⅲ | 1054 | オニグルミ核 | 中期遺物包含層 ※花粉分析、珪藻分析済 | 花粉分析等実施済の縄文中期層 | PLD-32327 | -31.74 ±0.18 | 3995±20 | 3997±18 | 4520-4460(63.3%) 4455-4420(32.1%) |
2016-015 | 調査区南部壁面柱状サンプル | No.4 | Ⅰ | 1035 | 炭化材(ハンノキ属) | 時期不明層 ※花粉分析実施中 | 調査区の中期・後期層をパックする無遺物の黒褐色草炭層 | PLD-32328 | -29.33 ±0.18 | 2885±20 | 2886±18 | 3070-2955(95.4%) |
2016-016 | 調査区南部壁面柱状サンプル | No.5 | a3 | 1038 | トチノキ種子 | 後期遺物包含層 ※花粉分析実施中 | 花粉分析等実施済の縄文後期層 ※SD3の上層に相当 | PLD-32329 | -29.36 ±0.17 | 3525±20 | 3524±17 | 3870-3810(34.7%) 3805-3720(60.7%) |
2016-017 | 調査区南部壁面柱状サンプル※トチ塚含 | No.6 | b1 | 1039 | トチノキ種子 | 後期遺物包含層 ※花粉分析実施中 | 後期のトチ塚層 | PLD-32330 | -25.23 ±0.22 | 3565±20 | 3564±20 | 3960-3950(0.5%) 3925-3825(92.5%) 3790-3775(1.9%) 3740-3730(0.6%) |
2016-018 | 調査区南部壁面柱状サンプル | No.7 | b2上 | 1040 | オニグルミ核 | 後期遺物包含層 ※花粉分析実施中 | 中期土器を包含する砂層 | PLD-32331 | -25.06 ±0.24 | 3580±20 | 3580±20 | 3960-3945(3.8%) 3930-3830 (91.6%) |
2016-019 | 調査区南部壁面柱状サンプル | No.8 | IV | 1042 | オニグルミ核 | 基盤層(黒褐色粘土)※花粉分析 | 中期・後期層下の無遺物基盤層 | PLD-32332 | -27.76 ±0.21 | 3570±20 | 3568±21 | 3960-3945(1.7%) 3930-3825(92.9%) 3790-3780(0.9%) |
2016-020 | 調査区南部壁面柱状サンプル | No.9 | Ⅴ | 1043 | 基盤層(青灰色粘土)※花粉分析 | 中期・後期層下の無遺物基盤層 | PLD-32333 | -26.18 ±0.24 | 3605±20 | 3606±22 | 3975-3850(95.4%) |