デーノタメ遺跡 各種分析の概要

社会3 >> デーノタメ遺跡 >> 各種分析の概要 >>

第4章 各種分析の概要

第3節 植物遺体

2 クルミ塚から出土した大型植物遺体

山本 華・佐々木由香・バンダリ スダルシャン

デーノタメ遺跡第4次調査において採取した堆積物を、水洗選別したのち、大型植物遺体を同定した。今回はそのなかからクルミ塚から産出した試料について報告する(表4、写真79)。縄文時代中期中葉から後葉の1号クルミ塚から6号クルミ塚までのすべてのクルミ塚から、ブドウ属やコウゾ属、クワ属、ニワトコ、マタタビ属などの液果の種実と、オニグルミなどの堅果類、アズキ亜属(第5表)やシソ属、栽培植物であるエゴマなどの人間による利用が推定される種実が産出した。また、少数ではあるが栽培植物であるウルシが含まれるウルシ属-ヌルデも産出した。いずれのクルミ塚においても、植物遺体の組成からは利用可能な植物が多く、人為的な廃棄行為が示唆される結果となった。
第4表 クルミ塚から出土した大型植物遺体(括孤内は破片数)
分類群遺構1号クルミ塚2号クルミ塚3号クルミ塚4号クルミ塚5号クルミ塚6号クルミ塚
時期勝坂3~加曽利E1勝坂3~加曽利E1勝坂3~加曽利E1加曽利E3勝坂3~加曽利E1勝坂2~勝坂3
水洗量1200cc1500cc600cc900cc1200cc900cc
木本 森林
オニグルミ核・炭化核(72)(70)(13)(310)(293)(23)
クリ果実(1)
キハダ種子11(16)14(12)8(16)19(18)24(25)22(26)
ミズキ核・炭化核1(7)2(22)1(5)2(8)10(10)4(3)
クサギ種子11(2)2(2)2(1)
タラノキ34(12)8(3)15(3)57(20)7(3)11(4)
ウルシ属-ヌルデ内果皮(1)
ブドウ属種子2(1)2(4)(1)1(2)27(9)
コウゾ属71(20)21(9)27(17)65(29)60(32)12(4)
ニワトコ核・炭化核38(6)30(12)15(3)49(13)29(13)11(4)
クワ属20(8)17(6)33(21)76(32)22(12)30(25)
マタタビ属種子21(17)15(23)15(16)19(23)10(6)32(19)
その他木本類種実4(7)2(4)1(1)9(12)7(1)3(6)
草本 林縁
カラムシ属果実73(15)87(27)30(2)54(14)144(21)46(6)
   湿地
ミクリ属15(1)27943(2)1324(1)
スゲ属オニナルコ節果実31(4)17(1)5(3)49(5)13(1)13(1)
スゲ属アゼスゲ節果実(1)915(1)19
ホタルイ属果実48(16)102(1)960(6)840(5)
ヤナギタデ果実3(4)4(2)1(2)8(4)5(1)2(1)
ボントクタデ果実26(37)53(33)4(11)34(20)19(9)29(26)
   道端・草地・荒地
イヌタデ属果実1(5)4(2)(2)
クワクサ種子333
カタバミ属種子111161(2)
ナス属種子2(1)51354
アズキ亜属炭化種子2(1)1(4)(1)3(3)6(7)4(1)
シソ属果実・炭化果実1(1)2(1)21
   栽培
エゴマ果実・炭化果実11(2)16(1)5
   その他
スゲ属果実1328(1)15(3)35(1)14 28
スミレ属種子2(8)2(10)1(1)4(12)(4)4(7)
その他草本類種実16(11)24(16)8(1)20(15)30(4)13(11)

産出量上位25分類群およびクリ、ウルシ属-ヌルデ、シソ属以外はその他とした。

橙色は利用したと考えられる分類群、赤色は液果・ベリー類、青色は湿地性の分類群。


写真79 デーノタメ遺跡から出土した大型植物遺体

1.キハダ種子(0004)、2.ブドウ属種子(0006)、3.サクラ属サクラ節核(0009)、4.クワ属核(0005)、5.コウゾ属核(0005)、 6.マタタビ属種子(0006)、7.ニワトコ核(0005)、8.カラムシ属果実(0004)、9.アズキ亜属炭化種子(0014)、10.アズキ亜属 炭化種子(0020)、11.アズキ亜属炭化種子(0020)、12.アズキ亜属炭化種子(0023)、13.エゴマ果実(0005)、14.ウルシ属-ヌ ールデ内果皮(0033※1号木組遺構(後期))、15.ミクリ属核(0008)

周辺植生としては、コナラ属の産出がほとんど認められないため、周辺には自然林は少なく、サクラ属やキハダ、ニワトコ、タラノキなどによって構成される明るい林縁が形成されていたと考えられる。またミクリ属やホタルイ属、スゲ属オニナルコ節、ボントクタデなどが生育する湿地が広がっていたと推定される。
アズキ亜属には栽培種のアズキと野生種のヤブツルアズキなどが含まれる。今回報告分のアズキ亜属炭化種子は長さ3.76~5.26(平均4.42±0.45)mm、幅2.54~3.60(平均3.01±0.33)mm、厚さ2.46~3.51(平均2.97±0.30)mmで、那須(未公表)の基準に従うと 野生型と中間型のサイズになった。同様のサイズの報告例としては、東京都下宅部遺跡の長さ平均4.58±0.54mm、幅平均3.06±0.31mm、厚さ平均2.74±0.58mm(縄文時代中期中葉~後葉;佐々木・工藤2006、佐々木ほか2007)や長野県大横道上遺跡の長さ平均4.24±0.75mm、幅平均3.42±0.51mm、厚さ平均2.89±0.40mm(縄文時代中期後葉:那須ほか2015)などがある。
第5表 アズキ亜属炭化種子の大きさ(単位mm)
No.遺構長さ厚さ臍長臍幅試料No.
11号クルミ塚4.122.642.521.700.470017-1
21号クルミ塚4.212.942.981.580.430017-2
32号クルミ塚5.262.822.752.800.720005-1
44号クルミ塚4.363.362.891.790.530009-1
54号クルミ塚4.553.293.281.980.580010-1
65号クルミ塚4.352.612.461.990.770013-1
75号クルミ塚4.623.323.261.840.550014-1
85号クルミ塚4.893.082.822.160.610014-2
95号クルミ塚5.083.603.510015-1
105号クルミ塚3.812.543.210015-2
116号クルミ塚4.143.273.161.810.550020-1
126号クルミ塚3.762.862.871.660.570020-2
136号クルミ塚4.252.822.941.520.320023-1
 平均4.423.012.97 1.89 0.55  

<< 前のページに戻る