デーノタメ遺跡 各種分析の概要

社会3 >> デーノタメ遺跡 >> 各種分析の概要 >>

第4章 各種分析の概要

第3節 植物遺体

3 土器種実圧痕

山本 華・佐々木由香


①圧痕部分およびその周辺を水で洗って離型剤を塗る

②シリコンを混ぜる


③シリコンを圧痕部分およびその周辺に充填して硬化を待つ

④レプリカを取り出した後アセトンで離型剤を除去する

写真80 レプリカ作成手順

第4次調査出土土器を中心に、土器表面に残る種実圧痕の調査を実施した。圧痕はレプリカ法(丑野・田川1991)を参考にレプリカを作成し、走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影、同定した(写真80)。
主に縄文時代中期から後期にかけての土器から種実圧痕が検出されたが、現在も継続して分析を行っているため、今回はこれまでに明らかになった概要のみを報告する。大型植物遺体と共通して見出された代表的な種実としては、中期中葉勝坂3式土器のニワトコとアズキ亜属、中期後葉加曽利E1式土器のキハダ、加曽利E1-E2式土器のエゴマが挙げられる(写真81)。 また、ダイズ属は今回植物遺体としては検出されなかったが、勝坂3式土器の圧痕として検出された。DNT4-049の種子の大きさは長さ11.73mm、幅4.98mm、厚さ3.34mmであり、山梨県酒呑場遺跡で報告された中期中葉の大型ダイズ属種子圧痕SAK01の大きさ(長さ11.8mm、幅5.7mm、厚さ3.7mm:中山2015)に匹敵する。中部地方で行われている圧痕調査では、マメ類(アズキ亜属・ダイズ属)とエゴマのセット関係が広く確認されている(能城・佐々木2014)。デーノタメ遺跡においても縄文時代中期にマメ類とエゴマのセット関係の存在が推定された。

写真81 種実圧痕のある土器の写真および土器圧痕から採取されたレプリカの走査型電子顕微鏡写真

1.キハダ種子、2.ニワトコ格、3.アズキ亜属種子、4.ダイズ属種子、5.エゴマ果実
a:土器・スケールバー5cm、
b:圧痕の拡大(スケールは任意)、
c:SEM写真


引用文献
丑野 毅・田川裕美1991「レプリカ法による土器圧痕の観察」『考古学と自然科学』第24号,pp.13-36.
佐々木由香・工藤雄一郎2006「大型植物遺体」下宅部遺跡調査団編『下宅部遺跡Ⅰ』pp.183-222.東村山市遺跡調査会
佐々木由香・工藤雄一郎・百原 新2007「東京都下宅部遺跡の大型植物遺体からみた縄文時代後半期の植物資源利用」『植生史研究』第15卷第Ⅰ号,pp.35-50. 日本植生史学会
中山誠二2015「縄文時代のダイズの栽培化と種子の形態分化」『植生史研究』第23巻第2号,pp.33-42. 日本植生史学会
那須浩郎・会田 進・佐々木由香・中沢道彦・山田武文・輿石 甫2015「炭化種実資料からみた長野県諏訪地域における縄文時代中期のマメの利用」『資源環境と人類:明治大学黒耀石研究センター紀要』第5号,pp.37-52.
能城修一・佐々木由香2014「遺跡出土植物遺体からみた縄文時代の森林資源利用」工藤雄一郎編『国立歴史民俗博物館研究報告』第187集,pp.15-48.国立歴史民俗博物館

<< 前のページに戻る